ICL手術は、角膜を削るレーシックとは異なり、レンズを挿入するだけで視力を矯正できるため、角膜が薄い人でも受けられる画期的な治療法です。しかし、眼の内部に直接アプローチするという特性上、眼科専門医が最も警戒するのは術後の眼圧上昇とそれに伴う緑内障のリスクです。眼の中には房水という液体が循環しており、レンズがこの液体の流れを妨げると、眼圧が急上昇することがあります。急性の緑内障発作が起きれば、激しい眼痛や頭痛、吐き気に襲われ、迅速な処置が行われなければ短期間で視神経がダメージを受けてしまいます。これを防ぐために、現在の主流であるレンズには中央に0.36mmの小さな穴が開けられていますが、それでも個人の眼の形状によっては房水の流れが滞ることがあります。また、レンズが水晶体に接触し続けることで起こる術後白内障も、長期的に注意すべき後遺症の1つです。白内障は水晶体が濁る病気であり、通常は加齢に伴って進行しますが、ICLレンズによる物理的な刺激や代謝の阻害が原因で、40代や50代といった比較的若い年齢で発症する可能性があります。もし白内障が進行して視力が低下すれば、挿入したICLレンズを取り出し、通常の白内障手術を行って眼内レンズを入れ直す必要があります。さらに、手術時の切開創から細菌が侵入する眼内炎のリスクは、頻度は0.02パーセント程度と極めて稀ですが、発生した際の影響は甚大です。眼内炎は進行が早く、数日で網膜組織に回復不能なダメージを与えるため、術後の充血や痛みを単なる疲れ目だと見過ごすことは許されません。他にも、レンズのサイズが適切でない場合に起こる位置のずれや回転も、乱視の悪化や視力の不安定さを招く原因となります。1回の不適切な手術が、その後の人生における眼のメンテナンスを複雑にしてしまう可能性を理解しておくべきです。医療機関を選ぶ際には、最新の検査機器を備えているかだけでなく、万が一の合併症が発生した際に迅速に二次診療を行える体制があるかを確認することが、患者自身の安全を守るための最大の防御策となります。
視力回復の裏側に潜む合併症の知識