臨床心理士として長年いじめ後遺症の相談を受けてきた経験から言えるのは、成人の対人恐怖の背後には必ずと言っていいほど、過去に深く傷つけられた経験が眠っているということです。ある患者さんは、職場の会議で自分の番が回ってくると、頭が真っ白になり動悸が止まらなくなると訴えて来院されました。彼は30代の優秀なエンジニアでしたが、小学校時代にクラス全員から無視されるという集団いじめを経験していました。このいじめが残した後遺症は、彼の中に他人はいつ自分を裏切るか分からない、他人は常に自分を評価し、隙があれば攻撃してくるという強固な信念を作り上げていたのです。対人恐怖という症状は、実はこの信念に基づいた非常に論理的な防衛反応と言えます。専門的なカウンセリングでは、まずこの防衛反応に感謝することから始めます。あなたが子供の頃、その恐怖心がなければ、もっと深い傷を負っていたかもしれない、だからその恐怖はあなたを守ってくれた大切なガードマンなのです、と伝えます。このように、症状を否定するのではなく、その役割を認めることで、本人の自己嫌悪が和らぎ始めます。大人の対人恐怖を治療する上で最も重要なのは、脳の書き換え作業です。いじめの被害によって歪んでしまった対人認知、例えば相手の無表情を怒りと解釈するような癖を、1つずつ丁寧に修正していきます。これは認知行動療法と呼ばれる手法ですが、いじめ後遺症の場合は感情の処理も並行して行う必要があります。押し殺してきた当時の怒りや悲しみを安全な場所で解放し、今の自分は当時の無力な子供ではないという事実を、身体感覚として染み込ませていくのです。また、対人恐怖を抱える大人は、回避行動をとることで一時的な安心を得ますが、これが長期的な孤立を招くというジレンマに陥っています。私たちは、安全が確保されたスモールステップ、例えば特定の店でコーヒーを注文するといった小さな行動を処方し、そこで何も恐ろしいことが起きないことを脳に再教育します。1年、2年と時間をかけることで、多くの患者さんは完全に恐怖が消えるわけではなくても、恐怖と共存しながら社会生活を送れるようになります。いじめの後遺症は、一生消えない傷だと思われがちですが、適切な支援があれば、その傷を教訓として、より深く他人の痛みに共感できる人間性へと昇華させることも可能です。もし今、何科に行けばいいのか、どこに相談すればいいのか迷っているなら、まずはトラウマに詳しいカウンセリングルームを探してみてください。自分の苦しみに名前がつき、その仕組みが分かった瞬間、対人恐怖という迷宮からの出口が見え始めるはずです。あなたは決して独りではありませんし、あなたの苦しみは必ず癒えることができます。
専門家が語るいじめ後遺症と対人恐怖の深層