58歳の男性、Bさんは、左脳の広範囲な脳梗塞を発症し、右半身の麻痺と失語症の後遺症を抱えました。懸命なリハビリにより、杖歩行が可能になり、日常会話も少しずつ取り戻していましたが、発症からちょうど1年が経過した頃、リハビリテーションセンターでの訓練中に突然意識を失い、右半身を硬直させる発作を起こしました。これが、脳卒中後の後遺症としてしばしば見られる卒中後てんかんの始まりでした。Bさんは、せっかく回復してきた身体がまた壊れてしまうのではないかという強い恐怖心に襲われ、リハビリに対しても消極的になってしまいました。担当医は、まずBさんの脳波を精密に測定し、梗塞部位の周辺に鋭波と呼ばれるてんかん特有の異常放電を確認しました。治療として、脳卒中後の患者に適した、他の薬剤との飲み合わせが良く、副作用の少ない抗てんかん薬が選ばれました。初期段階では、微量から開始し、血中濃度をモニタリングしながら徐々に増量していく慎重な調整が行われました。その過程で、一時的にふらつきが出た時期もありましたが、薬剤の変更と用量の最適化により、開始から3ヶ月で発作は完全に消失しました。特筆すべきは、発作が止まったことで、Bさんの認知機能や意欲が再び向上した点です。てんかんの異常放電は、たとえ目に見える発作に至らなくても、脳の正常な働きを阻害し、思考の混濁や疲れやすさを引き起こすことがあります。適切な薬物療法によってこのノイズが取り除かれたことで、Bさんは以前よりも集中してリハビリに取り組めるようになり、失語症の改善スピードも上がりました。Bさんの事例から学べるのは、後遺症としてのてんかんを単なる合併症として放置せず、積極的にコントロールすることが、全体的な回復の質を底上げするということです。現在、Bさんは薬を飲み続けながら、週に数回のデイサービスに通い、麻雀や囲碁を楽しむ穏やかな日々を過ごしています。脳卒中という大きな山を越えた後に現れた第二の試練でしたが、医学的な根拠に基づいた介入と本人の粘り強さが、再び平穏な日常を勝ち取ったのです。後遺症は複雑に絡み合っていますが、ひとつずつ丁寧に対処していくことで、道は必ず開けることをこの事例は証明しています。