いじめの後遺症による対人恐怖を自力、あるいは支援を得ながら改善していくためには、具体的な心理訓練を日常に取り入れることが有効であり、まず第1のステップとして推奨されるのが、不安階層表の作成である。これは自分が恐怖を感じる対人場面を、例えば10段の階段のようにリストアップする作業であり、1段目はコンビニの店員にありがとうございますと言う、5段目は知らない人に道を尋ねる、10段目は大勢の前でスピーチをするといった具合に、自分自身の不安のレベルを数値化する。この訓練の核心は、いきなり10段目に挑むのではなく、1段目の小さな成功を1週間毎日繰り返すことにある。脳の偏桃体に他人と関わっても大丈夫だという新しい情報を、いわば小出しに覚え込ませていくのである。第2のステップは、筋弛緩法や呼吸法といった身体的なリラックススキルの習得である。対人恐怖を感じているとき、身体は交感神経が優位になり、心拍数が上がり、筋肉が強張っている。この身体的な変化を察知した脳は、さらに恐怖を感じるという悪循環に陥る。訓練として、あえて全身に5秒間ぐっと力を込めた後、10秒かけて一気に脱力するという動作を1日10回繰り返す。これにより、リラックスした状態の身体感覚を脳に記憶させ、対人場面で緊張し始めた瞬間に、意図的に身体を緩めることができるようになる。第3のステップは、注意訓練と呼ばれる手法だ。対人恐怖がある人は、注意のベクトルが常に自分の内側、例えば自分の声の震えや顔の赤みに向いている。これを訓練によって外側の環境、例えば相手が着ている服の模様や、街に流れている音楽、空の色などに意図的に向けるようにする。自分の内側にある不安を無視するのではなく、外側の情報量を増やすことで、不安の占有率を相対的に下げていくのである。さらに、アサーションという自己表現の訓練も有効だ。いじめ後遺症がある人は、相手に合わせすぎるか、あるいは完全に沈黙するかの極端な行動を取りやすい。自分の気持ちを主語にして私はこう感じますと伝える練習を、まずは鏡の前や信頼できる友人との間で行う。対人恐怖という後遺症は、一朝一夕に消える魔法はないが、これらの訓練を地道に継続することで、脳の神経回路は確実に再構築されていく。14日間、あるいは21日間といった一定の期間を目標に、1つのワークを続けてみてほしい。変化は微細かもしれないが、1年前の自分と比較したときに、確実に他人の視線が以前ほど気にならなくなっている自分に気づくはずだ。いじめという暴力が壊したあなたの安心感を、あなた自身の手で1つずつ作り直していくプロセスは、何物にも代えがたい自己回復の旅となるだろう。焦らず、自分のペースで、この訓練を続けていくことが、対人恐怖という鎖から自由になるための唯一無二の道である。
対人恐怖を克服するための具体的な心理訓練